佐野眞一『阿片王ー満州の夜と霧ー』を読んだ感想文
鶴見が満州でアヘンを売るとか言うので「満州 阿片」でググったら出てきた人、里見甫。財閥のもとで軍と結託してアヘンを売っていた満州の阿片王。え、つるみとみが一緒だ!となって買った。
結論を言うと特に有益な情報はなかった。Wikipediaに載ってる以上のことは別に…という感じ。Wikipediaの出典がこの本なので別に本は悪くない。極東軍事裁判の証言記録が引用されていたので、そこは、ああ鶴見も真っ当なルートで消される場合こういう証言記録を残して世を去るのかもしれない……と思った。やだ消さないで。
話は概ね著者が関係者に取材を重ねながら里見甫を浮き彫りにしていくという方向で進んでいく。歴史的事実より人柄を明らかにすることに重きを置いた本。でも、近くで里見甫を見てきた人間は軒並み故人なので関係者と言ったところでそう近い仲でもない。阿片関連の文書も終戦時に焼かれたので残っていない。結局、満州の夜と霧とあるように夜であり霧がかかっているのでよく分かりませんでしたという結論に落ち着く。がっかりです。別にいいけど。求めていたものではなかった。なんかもっとどこの港から何トンのアヘンが輸出されたのかとか歳入に占めるアヘンの割合はいくらだったのかとか、里見甫関連で新潟県ゆかりの人物一覧とかそういうことが知りたかった。
めちゃくちゃたくさん人間の名前が出てくるし、なんというか週刊誌を読める程度の常識的知識が要求されるので常識が死んでいるわたしは非常に辛い。
ということでなんか読みたかったものではなかった。
週刊誌があんまり好きじゃないのかも。じゃあ読むな。取材相手を馬鹿にした態度が散見され不愉快だった。だからじゃあ読むなという話である。鶴見の面影を求めて読むなら私はもっと、色気も素っ気もない淡々とした文章が好き。教科書か論文か官公庁の公文書ぐらい淡白な方が逆にエロい気がする。極限まで主観をそぎ落とされたものを読んで鶴見を感じたい。だってエロいから。
とはいえ、例えばつるみの死後数十年経ってからライターがこういう文章を書くのかと思うとそれはそれで萌える。文献をあたり取材を重ね調査したけど結局分かりませんでした。で、終わる。みたいな。すっごく素敵。北海道の夜と霧。
本の中の里見は金払いがよく大金を動かす立場でありながら自分の金には無頓着、無私の人だと徹底して書かれていたが、実際はどうなんでしょうね。あと愛人がめちゃめちゃいっぱいいて子供もいるけど認知はしてませんみたいな。そうなんだ。なんかこう、おじさんの夢の詰まった人物として描かれていたので腐女子の見る夢とはちょっとベクトルが違ってあんまりエロさを感じられなかったみたいな気持ち。失礼が過ぎる。