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サイモン・シン『暗号解読ー量子暗号からロゼッタストーンまでー』を読んだ感想文

 まあ一回ぐらいは暗号についてなんか読んどいてもいいんじゃない?と思って読んだ。中二病なので。
 イギリスのサイエンスライターの本で、内容としては暗号作成・暗号解読の歴史と解読法の詳細について古代から現代まで順を追って書いてある。途中でロゼッタストーンっていうか考古学に脱線したりもするけど基本は実用的な暗号の話が概ね。
 最初は暗号とは何たるかについて多分当たり前であろうことが書いてあって常識が補充された。はい馬鹿に親切。大好き。暗号で大事なのはアルゴリズムを隠すことじゃなくて鍵を隠すことらしい。どうやって暗号化してるかがバレても、鍵が分からなければ大丈夫、というのが暗号のあるべき姿だと。確かに。だから、鍵さえバレなければ刺青暗号は解かれないってアシリパさんは正しいんだな~~みたいな。
 
 じゃあそもそもどうやって暗号を作るかって言うと、古代から使われてた単純な方法としてはやっぱり文字の置き換え。
 
 通常文字:いろはにほへと ちりぬるを わか……
      ↓↓↓↓↓↓↓ ↓↓↓↓↓ ↓↓
 暗号文字:つるみはえっち いろにほへ とり……
 
 なんかアルファベット表の頭に鍵(つるみはえっち)を入れて置換するのがテッパンらしい。人間が手作業で総当たりをやるのはあまりに途方もないのでなかなか破られないと。そうなんだ。でも、そういう暗号を使っていると文字の出現頻度から対応を見破られるって。確かに。ということは、ホロケウオシコニも出現頻度から鶴見に看破される可能性が十分にあるね。は~~~い。
 他にも文書そのものを隠すとか、帯に文字を書いて適切な太さの棒に巻き付けると文章が浮かび上がるとか、色んな技があるので何個か混ぜて使うと良いと書いてあった。でもそこまでして暗号化しても暗号解読者の方はどっかしらとっかかりを見つけてきて暗号を解いてしまう。
 暗号解読者って理数系の人のイメージだったけど近代以前の暗号解読者は言語学者とかそういう系統の人でゴリゴリ人文系。数学とかアルゴリズムとか別にそういうのを使うでもなく既知の方法と経験と言語のセンスだけで暗号を解いてしまう。ヤバい。すごい。なんだお前は。
 ということはつまり、刺青暗号も定式化された解読法や数学で立ち向かうタイプではない暗号なんだろうなっていうのが「娘が解ける程度の簡単なものにしている」って鶴見のあれに繋がるんだなあとか納得してみたりした。いや知らんけど。
 
 近代以降、世界大戦からの暗号は人間が解くものから機械が解くものへ変わっていく。めちゃめちゃエニグマの話をしてた。エニグマがいかにえっちな機械か知ってしまった。エニグマはドイツ軍が使ってた超すごい暗号生成マシンで、まあヘタリアで見たな~ってぐらいの認識しかなかったがメカニズムが凄い。メカニズムとか言っちゃった。でもそう、メカなんだよね。電子機器じゃなくて。全部機械で動いている。やっば。えっろ。いやえっち~~~。
 エニグマの内部には三つのドラムと一つのコンバータがありまして、一つドラムを通るたびに26文字のアルファベットが、別の26文字のアルファベットに一対一対応で置換されてしまう。ドラムは26本の配線をぐちゃぐちゃに混ぜ返してしまうものであり、コンバータは人間がプラグを差し替えてアルファベットの配列を変えるもの。つまり、一つしかドラムを通らなければ(あるいはコンバータしか通らなければ)それはもうただの
 
 いろはにほへと ちりぬるを
 ↓↓↓↓↓↓↓ ↓↓↓↓↓
 つるみはえっち いろにほへ

と同じ置換式なので、アルファベットの出現頻度(一番出てくる文字がeに相当するとか、qやxは滅多に出てこないとか)で看破されてしまう。しかし、エニグマはドラムを三つ通る。しかも一文字置換するごとにドラムが回転して置換に使われる鍵が変わる。ドラムごとに回転の周期も変えてある。さらにドラムを三つ通った後の文章がコンバータを通ると4回目の置換を受ける。
 ドラムの初期設定位置とコンバータのプラグ位置で暗号の鍵を自在に変えられるので毎日変えればなお安全。単純に鍵の数が26×26×26×コンバータのプラグ配列数とかなので人力での解読は無理。逆に味方の解読者は同じ設定のエニグマに暗号を突っ込めば解読完了。みたいな。へーそうなんだ。すっごーい。すごい。機構もさながら実用性に優れている。しかもデザインが洗練されてる。写真見たけど中の機構まで申し分なく美しい。説明全部読んでから改めてガワを見ると、え、この機能をこれだけコンパクトに使いやすくまとめたんだ、みたいな感動がある。すっごーい。やっぱり力とは美なんだね。素晴らしい兵器は美しいって言ってた鶴見のあれの片鱗を理解した。かもしれない。嬉しい。
 逆に解読者側のイギリス人が作った解読用の機械は配線むき出しで全然美しくない。音もうるさいしめちゃめちゃでかいし生産コストはバカ高いし。まあ別に量産するものでもないし全然いいけど。
 しかし暗号が機械で作られるようになると、解読も言語学系の人ではなくて数学系の人の手に渡っていく。まあこの辺の話もはや明治関係なくね?って感じだけど中尉殿は常に時代の先を行くお方なので量子コンピュータとか言わない限りゴカムの守備範囲でしょうよ。解読に数学が必要となれば数学者の一人や二人たらしこんでくるよあのお方は。
 とりあえず暗号解読の数学者の面々がとってもえっち。っていうか暗号作成者と暗号解読者の戦いもえっち。あと暗号作る人も解く人ももう暗号に夢中。暗号大好きじゃん。暗号解読に夢中になるあまり脳病院に送られてしまうって鶴見のお話にめちゃめちゃ納得。夢中になって仕方ない。
 
 現代の暗号はあれ。あの素数がどうちゃらのやつ。もはや鶴見は関係ないがエレガントで素晴らしかった。最後の方は量子力学の話に突っ込んでいき私は泣いた。いやわかんないよ。読んでる瞬間はなんか分かった気にはなったけどやっぱよく考えると物理的過程の不確定性とか言われても知らんわ。無理。まあでも単行本に収録されるまでストーリーが不確定なシュレーディンガーの本誌を読んでる以上、その辺の概念を理解したほうがいい気は大いにしてるのでいつか分かりたい量子論。いや無理~~~。
 
 
 とりあえず暗号解読について色んなことが分かりたいへんえっちだった。スパイをやってたってことは鶴見は暗号解読のいろはに通じてるわけで、鶴見もお勉強した理論なんだと思うと解読法とか超えっち。暗号を生成する鶴見もとってもえっち。刺青暗号も、鶴見は一通りの基本の暗号解読について分かった上で、「あれは軍用のそういう解読法で挑むものじゃない」って結論を出してるんだなあとか。つい夢中になってしまう暗号解読。いやえっち~~~~。良いものを読んだ。
 

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