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『著書より見たる北一輝の思想』という公文書を読んだ感想文

 鶴見中尉のモデルは北一輝であろうという説を見たので読んだ。いや北一輝って誰。
 北一輝は昭和の思想家。二二六の事件の論理的指導者として処刑されている。直接クーデターを指揮したわけではなくて、彼の思想に染まった若者が彼の著書を胸に暴れたので死刑、らしい。そうなんだ。この時点からいや鶴見ではなくない?鶴見は思想じゃなくて愛で染める人じゃないのとなったがまあ敵は知るところから始めましょうということで読んだ。
 最初は彼の著書『日本改造法案大網』を青空文庫でばらばらやっていたが、検閲で削除された部分も多いしそもそも政治的主張とか読んでもまるでわからない。諦めて『日本改造法案大網』のWikiを読んでいたら参考文献に官公庁の文書が上がっていたので、とりあえず開いた。手書きのかわいい文字だったのでちょっと愛しくなった。公文書は無料だし比較的読みやすくそれなりに信頼がおけるので好き。
 
 北一輝の思想、それすなわち鶴見の思想。だったらどうしよう。(どうもしないよ)
 話は進化論から始まる。まじか。そうなんだ。この前『利己的な遺伝子』を読んだからとってもタイムリー。まあ鶴見中尉殿は1年365日毎日が旬だが、それはそれとして進化論が多少解釈違いだなあとか思う。キリスト教的な神の存在を意識しての科学。最初はそこにむむむとなったがよく考えれば科学は進歩しているのだから現代人の私と明治生まれの彼が解釈違いなのは当然である。きっと北一輝も我々現代人と同じように自分の生きている時代の科学を信じてるだけ。
 公文書を書いたお役人はそんな北一輝を「唯物論」的偏向が見受けられると批判しているが、近代的合理主義を掲げる当時のインテリ層というか学術界というか思想家界隈って総じてそういう感じだったんじゃないの?と思った。知らんけど。
 北一輝の唱える歴史解釈だの天皇や国家のあるべき姿だのみたいなのは普通に普通だった。右翼のバイブルみたいに言われてるからなんかやばい思想が出てくるのかと思ったがそういう考えもあるよねと思える程度のものだった。むしろ彼の思想を絶対許されないみたいに言っている公文書を書いたお役人の方がやばい。役人にそんなことを言わせている政府もやばい。(やばいとかないから)
 だから、北一輝の思想が正しいとか正しくないとかじゃないけど、青年将校を篭絡するに足る思想ではあるなと納得はした。つまりまあつるみちゃんが鯉登にこういう思想を説いたとすればまあ感化することは可能でしょうよと思った。鶴見の著書を胸に命を散らす鯉登。何それ美しい。逆に鶴見の写真を胸にクーデターをやる青年将校も非常に推せる。愛しい。愛の二二六事件。
 とにかく鶴見のやろうとしていることが愛の二二六事件事件なのか論理の二二六事件なのか、そんなのとは全然関係ないのかはわからないが、近代の思想家ってこんな感じなんだね、という見識を得たのは有益だった。
 近代的合理主義。
 現代では近代思想を批判したり否定したりしてるけど当然近代は近代思想がトレンドだったんだもんね。そりゃそうだ。政治的な結論はともかく思想の根底にある認識が近代だ~~~~となった。心身二元論とか要素主義とか唯物論とか資本論とか現代じゃ全くトレンドでない思想が主流だったんだなあと。へー、ソフィアとかそういう世界観で生きてるんだ。
 ただ、思想はともかく具体的な改革案の方はちょっとよく分からなかった。それまじで言ってるの?となった。まあアメリカと戦争しますというのもまじで言ってるのって感じなので全然いいけど。っていうか鶴見の計画案も大概だよ。まじで言ってるの?
 
 結論としては鶴見のモデルが北一輝かは全然わからなかった。でも鶴見の思想がこんな感じだと言われてもありかなという範疇の思想だった。思想家であってほしくはないけど、まあ無理やり思想を問いただせばこういうこと考えてますぐらいなら全然あり。もちろんポスト近代な思想をお持ちでも大好き。なんでも好き。
 

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